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behind-the-scenes story

urushiol

2005年に誕生した「BITOWA」は”ホテルライクで上質な空間アイテムの提案”から始まった漆器ブランド。また2010年に誕生した「NODATE」は“野に漆”をキーワードに外遊び向けのカジュアルな漆器を提案したブランド。どちらもそれぞれのマーケットで高い評価を頂いています。両ブランドを展開するプロセスで、今の時代でも「漆」を求める方が相当数存在することを実感してきましたし、特に、漆の道具を「高級品」「ハレの日の道具」というイメージからカジュアルにアウトドアでも使える天然素材という意識転換を市場に与えたNODATEの存在意義はとても大きいと思っています。

「urushiol」は、NODATEが広めたカジュアルに使える天然素材というイメージを、より「普段使いの道具」として暮らしの中に定着させたいと思う中で生み出したシリーズです。この思いをカタチにするために重要だと思う暮らしの器が「飯椀」でした。私もお茶碗でご飯を頂いてきた人生でしたが、東山温泉・いろりの宿 芦名で「漆の飯椀」でご飯を頂く機会を得、とても素直に感動したのが「飯椀」開発のきっかけです。

その後、器の歴史を調べる中で、飯椀は「木偏」の「椀」、お茶碗は「石偏」の「碗」であることに気付きました。朝鮮から渡ってきた器を背景に戦が起こることもあった戦国時代、そこから江戸時代中期頃までは陶磁器はまだ高価なもので、ご飯は木の器「飯椀」で頂くのが一般的でした。江戸時代後期になると陶磁器の量産技術が全国に普及し、飯椀より安価なお茶碗がご飯を頂く道具の主流に躍り出て現在に至っています。芦名で頂いた感動を暮らしの中に取り入れたいと思う中、会津塗の飯椀を探しても好みに合うものが見つからず、山中塗の飯椀に出会い日常使いを始めました。用の美に適うとても良い器で10年以上経った今でも愛用する器の一つです。会津に自分の好みに合う器がないなら作ってみよう、と思いついたのが開発のきっかけです。

弊社がオリジナルで椀を作るからには、他社がしてこなかった世界に挑戦したい。そこで会津、輪島、越前、山中、様々な産地の器を調べ、また会津塗の歴史を学び直しました。

urushiolというブランド名は漆の主成分であるurushiolに由来しています。今や国産漆の国内流通量は1-2%しかありません。国産漆は輸入漆よりもurushiol成分比率が高いという調査結果もあります。urushiolをブランド名に掲げるからには国産漆に拘って作る製品にしたいと思いました。塗りは普段使いにとても相性の良い「摺り漆(拭き漆)」にしています。摺り漆であれば、国産漆を使っても高価になり過ぎないのと、NODATEの経験上、塗り直しやお直しのメンテ費用を安価に抑えられ、結果長く使い続け易いというお薦めの技法です。

会津塗の産業化の原点は、蒲生氏郷公が故郷の近江、日野の木地師や塗師を会津に連れてきたところから始まります。高台高めで端反りの「日野椀」が会津塗の原点なので、日野椀のフォルムを踏襲することにしました。

urushiolの飯椀は伝統的な木地作りである横木取りした栃材を、130年前に会津で誕生した鈴木式すり型轆轤の技術で作っています。一般的に、横木取りの器は歪みを避けるために全体的に厚みのある構造にしてしまいます。歪んだ漆器は商品にならない。しかし陶磁器の世界では、手捻りの器など、一つ一つ微妙に異なる歪んだフォルムが「買い手目線での味」となり、手にするそれぞれの心を動かしています。

 木は同じものが一つとない繊維構造を持っています。それぞれの木の個性が歪みを生むとすれば、神が与えた自然由来の歪みは製品価値になり得る、と思いました。従来の常識とは真逆の発想で、歪みを否定しないフォルムを作るために歪みを許容するための「薄挽き」に挑戦しました。薄く挽くのは轆轤挽きのプロセスで困難な部分もありますが、木地師と話し合う中で解決しました。完成した木地に「国産漆」で摺り漆を施すことで「呼吸する器・urushiol」の誕生です。飯椀大、飯椀中、平碗の3サイズ、3色(朱・黒・透)でのバリエーション展開としました。飯椀と謳っていますが、勿論、汁椀としてもお使い頂けます。前述の通り、「飯椀」として推したい気持ちから商品名は飯椀の大中としました。

urushiolには、もう一つ従来の漆器業界にはない特徴を持たせています。高台の裏に“urushiol Made in Aizu, Japan”と刻むと共に、木地製作の年を刻みました。漆器は長く使えると言われていますが、その器がいつ生まれたものなのか不明になりがちです。年を刻むことで使用年数が把握でき、塗り直しなどのきっかけにもして頂けます。もし代々受け継がれる器になるとすれば、刻んだ時の長さがファミリーにとって大切な価値になるでしょう。

高度経済成長期には大量生産大量消費が時代を覆い、大量なごみを生み出してきました。サスティナビリティが意識される今、使い続け、お直しし、また使い続ける時間軸を意識することはとても大切なことだと思っています。urushiolは、歴史に学んだフォルムや技法、今の暮らしの在り方、未来に繋ぐ希望、当に、過去・現在・未来がリンクする器です。従来の会津塗の器にない薄い縁は、薄張りのガラスで頂く風呂上がりのビール、繊細な風味を際立たせる薄口ワイングラスのように、食材と風味を際立たせてくれます。毎日の暮らしの中で器に触れる時、今日の器の様子はどんなかな、と愛でる意識を持たせてくれる器です。

urushiol Rim

urushiol Rimは、urushiol飯椀誕生の翌年、2016年に生まれたurushiolのシリーズのフラッグシップ的な器です。Rimは、名の通り「縁(Rim)」に特徴を持たせた器です。飯椀・平椀の薄挽きのフォルムは好評を頂いてきましたが、風呂上りに薄張りガラスで飲むビールの美味しさもある一方、厚いジョッキで飲むビールの美味しさもあります。つまりその時々の食材やシーンで求められる適切な縁の厚みは違うのではないか、ということ。世の中に厚い器しかないから薄い器として展開しているのが飯椀のシリーズですが、器の縁の厚みのこだわりを更に極めてみたい、という思いから開発しました。

urushiol rim

Rimは縁の一周の厚みを1㎜~3㎜と変化させています。お抹茶を点てて頂く時や、お汁粉を頂くような時は、厚みのある縁でほっこりとした気分を感じて頂き、鱧のお出汁に酢橘を差して、のような繊細な味を感じたいお料理の時には、薄い縁から触れて頂く仕立てにしています。

フォルムは、大阪の加島屋広岡家にあった紅葉呉器茶碗(泉屋博古館所蔵)に倣ったもの。紅葉呉器茶碗は、かつて大阪で名器比べがあった際、これに及ぶものはなかった、という逸話のある日本の名碗です。大小蓋付きの椀にすることで茶懐石の「四つ椀」に準じた仕立てにしています。飯椀、汁椀として使う場合には残りを蓋にし、全部に料理を盛る場合には蓋は菜入れなどにお使い頂けます。

木地は欅の縦木取りを手挽き轆轤で仕上げています。縦木取りは特に蓋付きの製品に向いているとされています。横木取りでは前述の通り、歪みが生じ易いため、経年変化で身と蓋がぐらつくようになりがちです。縦木取りの木地は木の繊維構造上、歪みが生じ難い利点があります。縦木取りの手挽きで更に縁の厚みを変化させるという技法はとても難しく、量産には向かない器ですが、発表以来、ミシュラン3つ星の東京都内の寿司店や北海道の高級旅館など、この器の志向性に共感頂ける方々から強いご支持を頂いてきました。

fumibaco

日本には、古来、書斎には文机(ふみづくえ)があり、書類や手紙を整理する文箱(ふばこ)が各家庭や職場にありました。平安時代中期に作られた辞書「倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」にも、笈(文箱の一種)を不美波古(ふみはこ)と読み、「書を負う箱なり」との記載があります。江戸時代になると豪華な蒔絵が描かれた漆塗の文箱が作られるようになり、明治、大正、昭和時代に至るまで、自宅の書斎や会社の社長室の机上に置かれる光景が見られました。しかし昭和から平成に至る工業生産製品の普及を背景に、家庭でも職場でもスチールや石油化学系樹脂製の文書整理箱に取って代わられ、特に平成以降には、天然素材の文箱は徐々に姿を消すようになりました。

無いなら作ってみよう

 fumibacoは、弊社が空間デザインのお仕事に関わらせて頂くようになり、天然素材である「木」をもっとオフィス空間や店舗の設えに提案できないか、という中で生まれた製品です。一般的なオフィスや店舗の家具や什器は、スチールや石油化学系樹脂製のものが一般的です。弊社の提案で、木のデスク、壁面、棚類が採用され、ナチュラルな素材空間が完成しても、やはりデスク回りの小物入れなどは大手オフィス家具メーカーなどの提供するプラスチックやスチール製品が並んでしまっていました。弊社内でも自らオフィス空間の木質化を進めてきましたが、スタッフが利便性から選びがちなのは一般的な書類整理箱。木質化された空間の中にある樹脂製品に違和感とストレスを覚える中、WEB上で探す範囲では、天然素材の書類整理箱は古典的な漆器メーカーの高価なものか、漆的な表現で安価に販売している樹脂製・ウレタン塗装の製品しか見当たらず、今の暮らしに合う「用の美」に適う製品はなかなか見つかりません。NODATEの時や、urushiol飯椀シリーズの時と同様、マーケットに無いなら自ら使いたいスタイルのものを作ってみよう、と思い立って開発したのがfumibacoシリーズです。

カジュアルな暮らしの道具

 A4のバインダーごと入るサイズ感のA4トレイ、レター等の一時保管に適した浅広型トレイ、名刺やステーショナリー小物などを収納できる深型トレイ、ペン類向けのトレイ、の4種を自在に組み合わせてスタッキングできる仕立てにしています。素材はシナ合板の共芯を用いることで、断面の積層の美しさをデザインアクセントにしています。摺り漆(拭き漆)で仕上げているのは、他のurushiol製品やNODATEと同様、漆だからといって身構えずに傷を気にせずカジュアルな暮らしの道具として使って頂くための仕立てです。

MHAK蒔絵のfumibaco

 リリース当初のfumibacoは、無地7色(黒・赤・白・青・緑・紫・黄)の展開でしたが、新たな取り組みとして蒔絵シリーズをリリースしています。蒔絵のグラフィックデザインは、弊社のNODATEでも人気のアーティスト・MHAK。日米のサブカルチャーシーンで活躍する会津出身の絵師です。

ペーパーレスの時代が加速していますが、それでもなお紙の存在が消えない職場や家庭環境が続く現在、MHAKデザインの蒔絵が入ったfumibacoを意識高い系の社長のデスクに置いて頂けたら、空間デザイン的にもきっと映える、そう考えてリリースしました。昭和の時代に社長のデスクにあった古典的な蒔絵の文箱が、フォルムを変えてMHAK蒔絵のfumibacoとして生まれ変わるとすれば、失われつつある漆の居場所がまた少し復元できることになります。

本銀を蒔く作業

コミュニティの再生

木と漆に触れる機会のない方は増える一方かもしれませんが、日本人が1万2千年以上も前から活用し続けてきた、世界にほとんど類のないサスティナブルな素材を、職場や家庭、身の回りに取り入れて欲しいと願っています。需要が起これば仕事が生まれ、木地師・塗師・蒔絵師の分業コミュニティの再生に繋がります。コミュニティが再生できれば、他所とは違った地域の魅力がまた輝き始めます。地域が輝けば、来たくなる人、住みたくなる人、が生まれます。会津塗は平成以降、ネガティブループを繰り返してきましたが、弊社はポジティブループに変換するきっかけを常に模索し、作り続けたいと思っています。漆は日本固有のサスティナブルな素材。漆が輝けば日本が輝きます。

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