暮らしを整える漆

Urushiol fumibaco

日本には、古来、書斎には文机(ふみづくえ)があり、書類や手紙を整理する文箱(ふばこ)が各家庭や職場にありました。平安時代中期に作られた辞書「倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)」にも、笈(文箱の一種)を不美波古(ふみはこ)と読み、「書を負う箱なり」との記載があります。江戸時代になると豪華な蒔絵が描かれた漆塗の文箱が作られるようになり、明治、大正、昭和時代に至るまで、自宅の書斎や会社の社長室の机上に置かれる光景が見られました。しかし昭和から平成に至る工業生産製品の普及を背景に、家庭でも職場でもスチールや石油化学系樹脂製の文書整理箱に取って代わられ、特に平成以降には、天然素材の文箱は徐々に姿を消すようになりました。

無いなら作ってみよう

 fumibacoは、弊社が空間デザインのお仕事に関わらせて頂くようになり、天然素材である「木」をもっとオフィス空間や店舗の設えに提案できないか、という中で生まれた製品です。一般的なオフィスや店舗の家具や什器は、スチールや石油化学系樹脂製のものが一般的です。弊社の提案で、木のデスク、壁面、棚類が採用され、ナチュラルな素材空間が完成しても、やはりデスク回りの小物入れなどは大手オフィス家具メーカーなどの提供するプラスチックやスチール製品が並んでしまっていました。弊社内でも自らオフィス空間の木質化を進めてきましたが、スタッフが利便性から選びがちなのは一般的な書類整理箱。木質化された空間の中にある樹脂製品に違和感とストレスを覚える中、WEB上で探す範囲では、天然素材の書類整理箱は古典的な漆器メーカーの高価なものか、漆的な表現で安価に販売している樹脂製・ウレタン塗装の製品しか見当たらず、今の暮らしに合う「用の美」に適う製品はなかなか見つかりません。NODATEの時や、urushiol飯椀シリーズの時と同様、マーケットに無いなら自ら使いたいスタイルのものを作ってみよう、と思い立って開発したのがfumibacoシリーズです。

カジュアルな暮らしの道具

 A4のバインダーごと入るサイズ感のA4トレイ、レター等の一時保管に適した浅広型トレイ、名刺やステーショナリー小物などを収納できる深型トレイ、ペン類向けのトレイ、の4種を自在に組み合わせてスタッキングできる仕立てにしています。素材はシナ合板の共芯を用いることで、断面の積層の美しさをデザインアクセントにしています。摺り漆(拭き漆)で仕上げているのは、他のurushiol製品やNODATEと同様、漆だからといって身構えずに傷を気にせずカジュアルな暮らしの道具として使って頂くための仕立てです。

fumibaco

MHAK蒔絵のfumibaco

 リリース当初のfumibacoは、無地7色(黒・赤・白・青・緑・紫・黄)の展開でしたが、新たな取り組みとして蒔絵シリーズをリリースしています。蒔絵のグラフィックデザインは、弊社のNODATEでも人気のアーティスト・MHAK。日米のサブカルチャーシーンで活躍する会津出身の絵師です。

ペーパーレスの時代が加速していますが、それでもなお紙の存在が消えない職場や家庭環境が続く現在、MHAKデザインの蒔絵が入ったfumibacoを意識高い系の社長のデスクに置いて頂けたら、空間デザイン的にもきっと映える、そう考えてリリースしました。昭和の時代に社長のデスクにあった古典的な蒔絵の文箱が、フォルムを変えてMHAK蒔絵のfumibacoとして生まれ変わるとすれば、失われつつある漆の居場所がまた少し復元できることになります。

 

本銀を蒔く作業

コミュニティの再生

木と漆に触れる機会のない方は増える一方かもしれませんが、日本人が1万2千年以上も前から活用し続けてきた、世界にほとんど類のないサスティナブルな素材を、職場や家庭、身の回りに取り入れて欲しいと願っています。需要が起これば仕事が生まれ、木地師・塗師・蒔絵師の分業コミュニティの再生に繋がります。コミュニティが再生できれば、他所とは違った地域の魅力がまた輝き始めます。地域が輝けば、来たくなる人、住みたくなる人、が生まれます。会津塗は平成以降、ネガティブループを繰り返してきましたが、弊社はポジティブループに変換するきっかけを常に模索し、作り続けたいと思っています。漆は日本固有のサスティナブルな素材。漆が輝けば日本が輝きます。

MHAK as MASAHIRO AKUTAGAWA

1981年會津若松生まれ。ペインター/アーティスト。
デザイナーズ家具や内装空間に多大な影響を受けたことから絵画をインテリアの一部として捉えた”生活空間との共存”をテーマに壁画を中心とした制作活動を行う。空間と絵画を共存させることは絵画そのものを雰囲気として認識させる必要性があると考え、抽象表現にこだわったスタイルを追求。曲線で構築し反復する独特なスタイルを作り上げ個人邸や飲食店、ホテル客室など数々の内装壁画を手掛けてきた。一方で、Levi’s® HARAJUKUやRVCA SHIBUYA等といったストア外装壁画も数多く手掛けている。その他、adidasやYONEX、THE NORTH FACE等といったグローバル企業やストリートブランドへのアートワークの提供も行い、2017年にadidas Skateboardingとのコラボレーションで自身の名前が冠されたシグニチャーシューズを含んだコレクションをグローバルで発表、大きな話題を呼んだ。また地域創生としての地方での活動や、世界中にメンバーを要するアーティスト集団『81 BASTARDS』の一員などその活動は幅広く、現在までに日本はもとよりアメリカ、オーストラリア、イタリア、アルゼンチン等世界中様々な都市で作品を発表し国内外にその独特な世界観を拡げ続けている。